2016年4月14日木曜日

Publication 簗瀬洋平/Yohei Yanase


簗瀬洋平

Unity Technologies Japan Product Evangelist / Education Lead
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究所付属メディアデザイン研究所 リサーチャー

※正しくは「𥱋瀨」ですが文字コード問題を避けるため新字体で代用しています。

パブリケーションのサイトは以下に移動しました。 https://sites.google.com/site/yoh7686/publications

2015年12月22日火曜日

座長をお願いするとき/引き受ける時に必要な事チェックリスト

学会に参加したら突然座長を頼まれる。
そんな経験ありますよね?

しかし、座長というのが何をするものなのかは学会や研究会によって異なります。
気軽に引き受けてしまい、セッションが始まってからしまった! という自体になることがありますので、引き受ける方も頼む方もどんな事があるのかは把握しておくとハッピーな座長経験となるはずです。
以下に項目を挙げていきます。


  1. 発表時間と質疑応答時間を確認
  2. タイムキーパーの有無とやり方を確認
  3. 発表者への説明を行うか否か確認
  4. 発表タイトルおよび発表者の事前確認
  5. 質疑の方式を確認
  6. 登壇者登録システムによみがなを入れリストを作る
まず1、発表時間と質疑応答時間です。
基本中の基本ですが、必ず把握しておく必要があります。
自分が発表しない場合は意外と知らない事がありますので、特に突然引き受ける事になった時や、頼む時には気をつけておきましょう。

次に2。タイムキーパーの有無です。学生さんのボランティアが行っている学会、研究会は多いですがそれに慣れてしまうと「え、自分?」という事がたびたびあります。自分でタイムキープをする場合はベルの有無やベルを鳴らす数、カンペの有無なども確認しましょう。なお、タイムキーパーの有無に関わらず発表者にどう時間を知らせるかは予め発表者と打ち合わせしておきましょう。座長を頼む場合はタイムキーパーの有無や方式などを伝えておきましょう。

3については基本的に座長が行うものと思っていますが、司会と座長が別にいる場合などや学生さんのボランティアが担当して下さるケースがあるため、念のため確認しておきましょう。学生さんなどの場合、同じ事を二度聞かされても言い出せない場合などがあり、発表前の貴重な時間を消費させてしまう危険性があります。

4は主に名前の読み間違い対策です。難読名字でない場合でも、例えばタカダとタカタ、タカハシとタカバシなど感じだけではわからないものがあります。ただ、これらは学会の登録情報にないとWebサイトや英語論文を検索するはめになります。6で示したように、運営側は登録情報に読み仮名をふくめたうえでそれを座長や表彰式に活用すると良いです。

5も基本的な情報ですが、マイクをまわすのかまわさないのか、マイクスタンドがどこか、質問をどのように切るかというのは事前に把握しておく必要があります。ボランティアの学生さんがマイクを持って走ってくれる場合、学生さんたちと事前に相談しておきましょう。

なお、以上のような情報をWebサイトに載せておいて簡単に座長が出来るようにしておくと突然座長を依頼する側にまわっても気が楽です。HCIジャンルの方は特に、研究会などでそういったトライをし、うまくいったら共有してください。



2015年3月9日月曜日

学会などで企業展示を呼ぶ際に必要な事チェックリスト

ここ3年ほど企業所属の研究者として学会に関わっています。
主に

・委員会に所属して学会の運営に関わる
・学会に論文を投稿し、発表する

というアカデミックの人間としての活動をしているわけですが、企業所属の人間として

・学会に協賛する
・学会に出展する

という機会も多々あります。
両方を体験するといろいろ気になるところもあるので、そういった事を列挙しておこうと思います。なお、ここに記述されている以外に何かありましたらコメントに書いていただくか、直接ご連絡下さい。随時追加、修正を行い、学会運営をする際に参照出来るチェックリストとして役に立つものになれば良いと思います。

■参加前に知らせるべき情報

  1. 学会もしくはワークショップの概要
  2. なぜ企業に参加して欲しいか
  3. 企業にとっての参加メリット
  4. 協賛金の価格
  5. プレゼン、LT、展示ブースの有無と展示時間
  6. 協賛した場合の学会参加の扱い(別途参加費が必要か、無料か、割引か)


1〜3はあまり説明される事がありません(私自身が何年も参加している事が多い)が、通常は社内で承認をもらうのにこれをきちんとわかるように説明する必要があります。コピー&ペーストもしくはメールの転送で済む程度に元々説明してあれば、協賛を頼まれた社員が頭を悩ませなくて済むわけです。少なくとも私は社内で協賛を通す時には、それなりに長い文章を書いて送っています。
その手間の話を除いたとしても、担当者がそこに納得出来ていれば、その後の事務的な処理や出張などにも高いモチベーションで臨むことが出来ます。

4〜6は当然と言えば当然なのですが、5と6に関しては抜けが多いです。
なお、ブースを出す場合、ブースに2名必要です。企業にもデモ展示に興味を持って欲しい、と思ったら2名+α人を出さないとデモを見ている時間がなくなります。展示時間は長いほどありがたい……という面もあるけれどもそれだけ長くブースに人が張り付いている必要があるためコストにも直結します。「1日中ブース出していてOKです!」という場合でも主にどのくらいの時間帯に人が来るの知らせたり、コアタイムを作ってあげたりすると良いでしょう。

6に関しては学会によってまちまちですが、協賛しても参加できません、という場合「お金さえ出してくれれば良いです」という強いメッセージを発信していると言っても過言ではないので、明確に他の意図がないのなら気をつけた方が良いです。
また、学会で発表をして企業として協賛をして……という事になった場合に参加登録のサイトがそれに対応しておらず、別なメールアドレスが必要、というケースが時々見られます。パラメータとして、発表者、参加者、協賛企業の3つは別々に持っておくと良いです。

■参加確定後に知らせるべき情報

  1. 入金方法
  2. 入金方法ごとの入金期限
  3. 請求書を出せるかどうか
  4. 請求書が出ない場合、その理由と領収書を出すかどうか
  5. 展示ブースの大きさと椅子の有無、電源の扱いとケーブルタップの有無
  6. プレゼンやLTに使うプロジェクタの解像度と音声を出せるかどうか
  7. 荷物の送り先と受け取れる期間
  8. 終了後に会場に集荷が来るかどうか
  9. ごみの処理について
  10. 参加人数と参加者の氏名を聞いておく
  11. 当日、企業出展者はどこで受付するか
1は当然普通に来るのだけど、2は知らされないケースが多々あります。なお、企業から払い込む場合、締日の次の支払いになるのが一般的であるため、入金して欲しい時期が決まっている場合は出来れば二ヶ月程度前に知らせておきましょう。
3についてですが、請求書を送って処理してもらうと企業側の担当者が非常に楽です。どうしても請求書が出ない、という場合は払い込み後に領収書が出る事は伝えておきましょう。事後に領収書というパターンだと、担当者個人が立て替える事になりがちです。せめて不安を解消するために領収書が出ることは知らせておきましょう。

5は通常教えてもらえますが、椅子が盲点となる事が多いです。特に1日中開いているブースで椅子がないとかなりの疲労になります。用意出来ない、というのは仕方がない事ですが、事前に椅子がないとわかっていればそれなりの対処が出来ます。また、机の大きさだけでなく占有スペースの形状や電源の場所、タップの有無は必須情報です。例えばデモをする場合、机の前に人がいられるスペースがどれだけあるか、という事も重要ですので出来れば会場の見取り図も一緒に欲しいところです。

6の情報はほとんど出て来る事がありません。せめて4:3か16:9かは知りたいところです。また、ソフトウェアのプレゼンをする場合、プロジェクタが1024×768なので表示領域が足りず、デモが出来なかったというケースも実際にあります。学校などの施設を借りると、備え付けの機材が古いなんていうことは日常茶飯事なので予め調べておきましょう。

7はデモの機材搬入などもあるので通常知らせてもらえるのですが、可能な限り早く教えてもらえた方が良いです。特に学会が続けて行われる時期の場合、学会Aから学会Bに荷物を送る、なんて事も発生します。一ヶ月程度前には確定しましょう。
搬入があるからには必ず搬出もあるわけですが、集荷は個別で手配しているなんてことも時々あります。誰かが呼んでいるだろう、と思ったら誰も呼んでいなかったというケースも見たことがあるため油断は出来ません。宅配業者もすぐには対応出来ない事があるので、予め手配しておき、出展者に周知しましょう。業者がわかっていると事前に伝票も準備出来るので非常に楽になります。

9は見落とされがちですが、必要な情報です。ゴミは持ち帰り、という場合でも事前に知らせてもらえれば箱に詰めて送ってしまうなどの対処が可能です。最悪の場合、荷物もすべて送ってしまっており、ビニール袋に詰めたゴミを飛行機や新幹線でハンドキャリーするはめになるわけです。会場で捨てられなくても、有料でゴミを引き取ってもらう事が出来るので、協賛費や出展費用にそこを含めてしまうという手もあります。

10は不思議な事に、参加人数と参加者氏名を聞かれないケースがあります。なぜこれがいけないのかは次項に書きます。

11に関しては通常、受付に行けば良いとわかるわけですが、実際に受付に行くと企業出展者をどう扱うか把握していない、というケースが多いです。特にどこに行けば良いのか書いていないと、こういう時にスタッフの方に聞きながらデモ会場と受付を往復する、みたいな事態になる事があります。

■当日の対処
  1. 受付は円滑に
  2. 名札に企業名と氏名を入れる
  3. 参加企業向けデモツアーをしましょう
1は当然と言えば当然ですが、前項に書いたように企業参加者の受付に関してあやふやな場合があります。協賛企業受付を別に作るか、受付のマニュアルをしっかり作りましょう。
2は前項の10とも関連しますが「企業出展者」としか入っていない名札しかないケースがそれなりにあります。学会参加者の名札を作る場合は所属機関と氏名が入っているのが通常ですが、何故企業だとそれが違うのか、非常に謎です。前項9もこれに関連した話で、そもそも参加者の名前も聞かれないので名札も用意されないわけです。
前述したように、学会は通常のカンファレンスなどに比べるとだいぶ規模が小さい集まりで企業の参加メリットは小さいです。ですから、参加してもらった企業のスタッフには学会の良さ、楽しさを十分に味わってもらい、良き理解者となってその後も活動してもらった方が得です。そんな時に、協賛してもシンポジウムには入れない、名札に名前も書かれない、というような扱いをしたら学会に対するイメージが低下するだけではないでしょうか。

3は提案に過ぎませんが、企業参加者で特に研究文脈ではないところから学会展示などを手伝いに来ている人に対しデモツアーなどしてあげると良いのではないでしょうか。

■企業と研究機関の関係

企業は研究機関にとって、研究のスポンサーであり、学生の就職先であり、場合によっては研究成果を世に送り出すパートナーでもあります。一方、企業にとっていちばん知見を共有出来る相手は競合他社となるわけですが、通常同業他社とそういう場を持つことは難しいです(GDCやCEDECなどは珍しい例ではないかと思います)
しかし、間に学会という場が挟まることによって、同ジャンルを研究し、実践し、知見を積み重ねた人間が所属を気にすることなく議論をする事が可能となる場合があります。
これは、企業の人間にとって大きなメリットとなり得ます。

しかし現状、協賛企業として学会に参加している限りでは、元々そのジャンルの学会に参加し、卒業後に企業に行って戻ってくるなどのケースでないと、なかなか学会という場になじめないのではないかと思います。もちろん、学会はほぼすべてがボランティア運営であり、運営していくだけで手一杯なのはわかっていますが、それを理解してもらうにはもう少し距離を近づける必要がありそうです。

以上、今後の学会運営の参考になれば幸いです。

2014年5月30日金曜日

「タイムマシンニュース」に気をつけよう!

最初に結論から書きますが、面白い、興味深いニュースがまわってきたらそれがいつ起こった事なのかを見てみましょう。明確になければ元記事を調べましょう。いま受け取ったニュースは本当にニュースでしょうか?

ニュースとは文字通り、最新の出来事や報道の事です。
今世の中でどんな事が起こっているのか?
最新の状況はどうか?
日々そうした状況を得る事によって多くの人は「これからどうなっていくのか」を考えながれ生きていくわけです。

Web上、とりわけTwitterやSNSでは日々様々な情報が流れていくわけですが、その中には「ニュース」と言えないものも数多く混じっています。

例えば2014年5月27日にこの記事を数多くの方がシェア/リツイートしています。

「プラスチックごみを石油に変える装置を日本人が発明!!これで世界は変わる!?世界が注目!」
http://buzznews.asia/?p=27343

これはプラスチックを集め、それを石油に戻す事で再使用をしようという試み。
しかし、その話題は実は新しくありません、過去に何度も見た記憶があります。
この記事は翻訳記事ですので、参照元を見てみます。
参照元の記事は非常に小さく書かれていますが、こちらです。

Plastic to Oil Fantastic
http://ourworld.unu.edu/en/plastic-to-oil-fantastic

これは2010年8月27日に書かれた記事です。
しかも、元記事は2009年4月19日の記事を引用しています。

プラスチックを石油に変えるという試みそのものは素晴らしく、十分に安いコストでそれが行えるなら多くの国や自治体などで活用されるでしょうし、応援する価値のある内容です。しかし、これは確実に「発明した」というニュースではなく「世界は変わる?」という見出しをつけるのに適切な内容でもありません。この記事に必要なのは、2009年から今までにこの装置を利用してどんな活動が行われて来たのか、現在どの程度普及しているのか、世界はどの程度変わったのかという情報です。
「応援しよう」とポジティブに書かれていますが、2009年に話題になった装置で2014年現在世界中で使われているようには見えませんから、応援するなら何かしらの具体的な支援が必要なのは明らかです。
つまりこの記事は、過去の記事を発掘して今まさに起こっているかのように日時の情報をあえて削り、ポジティブな未来を読者に予感させて少し良い気分にさせ、注目を集めるためだけに書かれているわけです。

こういった記事は実はネットに溢れています。

インドで斜め上な「水運び機」が発明され世界中がナマステ
http://www.yukawanet.com/archives/4670768.html

書かれたのは2014年5月6日、しかしこれは2012年のニュースです。
http://wellowater.org/the-waterwheel/

これも内容そのものには広めるべき価値があるかも知れません。
しかし、少なくともシェアやリツイートの対象となるのはこのニュースサイトの記事ではなく、元の方です。

ネット上でインパクトのある話題はすぐに広がりますが、しばらく経つと忘れられてしまいます。しかし、一度話題になったものはまた話題になるポテンシャルを持っているので、数年前に一度話題になったものを拾ってきて最新のものであるかのように広めれば再び話題になるわけです。

・過去ニュースにタダ乗り
・時系列を意図的に誤解させる
・シェアしましょう/RTしましょうという文言を入れる

多くのお手軽な似非ニュースサイトの常套手段です。
それでも内容が良ければ良いだろうと思う方もいらっしゃるかも知れませんが、もし本当に広めるべきと思うなら、少し手間をかけて元サイトを読めば本当に広めるべき情報や、自分がすべき応援の仕方がわかるわけです。それすら億劫ならそれはそもそも広めたいと思うほどのものではないのではないでしょうか。

もう一度書きますが、話題になっている、初めて聞いた、画期的だ、すごい、と思うようなニュースを受け取ったらまずそれがいつのものなのか調べましょう。
そのニュース、本当にニュースでしょうか?

2014年5月28日水曜日

誰もUnityを使っていない研究室でゼロからUnityを学ぶ簡単なやり方

学校でUnity教えたい、でもUnity教えられる教員がいない、という相談をよく受けます。
私自身、ある程度Unityは使えるけれども教えられるか、と言われるとなかなか微妙な線、これまで自分がやった事のある内容なら教えられるかなという程度です。

が、別に誰一人Unityを使えなくてもUnityを学ぶ会は開催出来ます。
ドットインストールを使いましょう!
http://dotinstall.com/lessons/basic_unity

ドットインストールは映像を使ってプログラムに関する様々な事を学ぶためのサイトです。近頃はドットインストールを使って個人でUnityを憶えた、という方もだいぶ増えていますが、「ではセミナーまでにそれぞれドットインストールを使ってUnityの使い方を学習してきてね」と言っても、それなりの敷居はあるわけです。

そこで、ドットインストールを使ったUnity講習会を開けば良いわけです。

・会場を適当に用意
・ドットインストールの画面をプロジェクタでスクリーンに投影
・レッスン#01から順番に再生し、自分でも同じ事をしてみる
・出来たら回りを見てうまく出来ていない人をサポート
・全員出来たら次に進む

この繰り返しです。
1回分の映像は3分です。仮に毎回その内容を終えるのに10分かかったとしても、90分時間を取れば5回〜6回分の学習は可能です。
これを5回〜6回繰り返せばドットインストールでの学習は完了します。

セミナーという場を用意することによって始めるモチベーションを持つ事が出来る、互いに助け合う事によって詰まってしまう事を防ぐ、というメリットがあります。

Unityのスタッフは、ハンズオンセミナーなどを全国で開いていますが、本当に基礎の基礎を学ぶだけなら上記のようなやり方である程度習得出来ます。その状態で初心者よりは少し上のハンズオンセミナーに参加したり、もしくは実際作ったものに対してUnityのエヴァンジェリストがアドバイスをするというようなセミナーを開いた方が、より機会を有効活用出来ます。

是非、教員の方も学生さんも一緒になってUnityを学んでみて下さい。

2013年7月16日火曜日

フォトリアリスティックなPixar短編映画「Blue Umbrella」

週末に「モンスターズ・ユニバーシティ」と「ワイルドスピード EURO MISSION」を見に行って来た。
それらのレビューは他のサイトなどに譲るとして、なかなか衝撃的だったのが、モンスターズ・ユニバーシティの前に上映された表題のPixar短編映画「Blue Umbrella」だ。

この写真はその短編映画の1カットだが、ぱっと見ただけでは実写かCGかわからない。
Youtubeでは動画の一部も公開されている。
昨今のCGのクオリティを考えれば、Pixarが実写と見紛うようなクオリティのCGアニメを作れる事そのものに驚く事はない。しかし、そういったものを作品の表現として実践投入してきたという事実は重要だ。

Pixarが最初に劇場で上映したのは「トイ・ストーリー」で1996年の作品になる。
なんと今から17年も前なのだ。しかし、今「トイ・ストーリー」を見返しても脚本は素晴らしいし、映像としても他のCG映画と違って拙いところが見え足らない。特撮やCGの映画というのは、時代を経て技術が向上していくと、昔の作品を見るのが辛くなっていくが、「トイ・ストーリー」も「バグズ・ライフ」も未だに色あせず、映画として楽しむ事が出来るのだ。

それは、Pixarが高い技術を持っていたからではない。持っている技術に会わせて作る作品を洗濯しているからだ。子供向けのおもちゃは細かいディティールを持っていないし、プラスチックなどの質感は当時の技術でも十分に表現可能だった。
「バグズ・ライフ」に関してもそうだ。本物の昆虫は拡大して見れば細かな毛や複雑な器官などを持っているものの、人間の視点から見るとつるっとしている。「バグズ・ライフ」の主人公達は人間から見た虫としてうまくデフォルメしているわけだ。

かつてはCGでの表現が難しかった水も無理なく表現出来るようになれば「ファインディング・ニモ」で豪華に使われる。「カーズ」ではデフォルメされているものの、しっかりとした質感を持った車や背景世界を描いている。「レミーのおいしいレストラン」ではパリの街が描かれ、多くの人間が登場するようになった。「WALL・E」ではリアリスティックな廃墟の地球を描いている。
これらの映画はあと10年、20年経っても(二次元平面上に投影された映像コンテンツとしては)色あせる事がないだろうと思える。

そうした流れがあったうえでの、「Blue Umbrella」だ。実写と見紛うようなものを表現する、という事には大きな意味がある。これまでのPixar作品は、デフォルメされた世界に観客が飛び込んでいく必要があった。しかし、実写と見紛うような映像は、まさしく我々が暮らしてきた現実世界そのものだ。そこにCGでしか出来ないような表現を加えていく事によって、我々はシームレスに表現の世界に入り込む事が出来る。もちろん、そういった表現が全てにはならないし、VFXを使った映画というのはもともとそうした性質を持っていた。

しかし、Pixarがフォトリアリスティックな映像表現を手に入れ、それを使ってきたという事はやはり特筆に値する。彼らは、また新しい武器を手に入れたわけなのだから。


2013年7月1日月曜日

ヒューマン・コンピューター・インタラクションから見るロボットアニメ

初めてガンダムを見たのは幼稚園の頃だった。
その頃から子供心にもあんな操縦桿とペダルだけで人型の複雑な動きをするのは無理だろうと思っていた。

だが、今考えてみるとどうだろう。
例えば現代のゲームはファミコンの時代に比べると非常に複雑に思える。
しかし、ハイエンドコンテンツのゲームでさえ、2つのスティックと正面の4つのボタン、十字キー、コントローラー上面左右にある4つのボタンで制御され、歩く、走る、飛び乗る、ジャンプする、飛び降りる、物を持つ、捨てる、投げる、武器を構える、撃つ、武器で殴る、武器を拾う、武器を交換するなどの動作を行う事が出来る。
また、正確にスティックが入っていなくても、プログラムはプレイヤーの意図をくみ取り、適切な敵を攻撃したり、スイッチを動かしたり、荷物を動かしたりするわけだ。

かつてのゲームは、1ボタン1アクションで、どんな時でもボタンを押せば同じ動きをした。しかし今は、ゲームの中のキャラクターやオブジェクトごとに出来る行動が決められており、シチュエーションによって選択されるものが決まる。それらは混乱しないよう、直感的に予想し、その通りになるよう作られている。
おそらく、モビルスーツなどのロボットにも同様の仕組みが導入されているはずだ。

例えは戦艦のモビルスーツハンガーで起動した状態ではセイフティロックがかかり、武器は使用できず、急激に手足を振るような挙動は取れないだろう。武器を持つ際には、ハンガー側のクレーンやアームとモビルスーツが通信によって同期し、武器がセットされるまで同じ姿勢を保つ。
イレギュラーな場所にある武器を拾う場合、コックピットから映像中の武器を指定する。それが自軍のもので、操縦しているモビルスーツと型番が合うようならそこに拾うというオプションが発生し、パイロットがアクションを実行するためにレバーを動かすと、自分のバランスを保ちつつモビルスーツは武器を拾いにいくわけだ。

戦闘においても同様だ。例えば敵を撃つ場合、敵に照準を正確に合わせて撃つという動作はほぼ簡略化され、ある程度近い位置に照準を持って行けば自動的に合わせてくれるだろう。
そこでトリガーを引けば、彼我の移動ベクトルを考慮して弾やビームが発射される。
当然、撃たれた方もそのまま攻撃を受けたりしない。相手の持っている武器が動き、自分を狙った時点で警告を発し、パイロットに回避を促す。ガンダムの劇中では時々、ピピピピピという音が聞こえるがまさにそれではないだろうか。自動回避という事も技術的には出来るだろうが、おそらくパイロットは自分でタイミングを取る事を選択するだろう。もちろん回避においても、周囲の障害物や敵味方などの状況を見ての補正が発生するはずだ。

特に宇宙の戦闘においては、バーニアを吹かして加速しては逆方向の加速で元の速度の動くような挙動が頻繁に発生するが、そこも細かい事を考えずに動けるよう設定されているだろうと思われる。また、同じモビルスーツ戦でも地上戦と宇宙戦ではあまりに挙動が異なる。これも、同じインターフェイスで直感的に戦闘が行えるよう、操作感覚などはある程度統一されているだろう。

特殊な状況、例えばモビルスーツで人を救出したり、工作を行ったりする場合、それ用に制御プログラムを追加するかも知れない。例えば人を認識し、人を傷つけない程度の早さで手を差し伸べ、掴むなどといった動作をするわけだ。工作などの場合は精密動作も要求される。

ガンダム劇中でも、それまでモビルスーツとは無縁だったような登場人物がパイロットになるケースが度々あるが、おそらくコンピューター制御されているモビルスーツの場合、コックピットの中でそのままチュートリアルを行えるようなプログラムも用意されているのだろうし、上記のように十分にプログラムサポートがされており、動かすだけだったらそんなに長い訓練は入らないのかも知れない。

では、モビルスーツの操縦の上手下手というのはどこで出るのだろうか?
それはおそらく、制御プログラムがどのように動いているかを理解し、うまく活用出来るかどうかというところだろう。その段階を過ぎると、その制御プログラムを自分で調整し、自分の感覚に合った物にしていくようになるはずだ。
そして、アムロやシャアのような才能を持った人間なら、大部分のサポートを切ってしまって、自分自身であらゆる操作と微調整を行うようになるのだろう。それでまともに動かす事が出来るなら射撃も回避もサポートを切り、モビルスーツの典型的な挙動から脱する事で、戦闘が有利になるはずだ。

特殊な兵装の機体や、従来とは違う形のモビルスーツの場合、他の機体で使っていた制御プログラムが流用できず、多くの事をパイロットが自分で行わなければならないため特殊な才能を持った人間が乗る事になるのだと考えるとそれも納得がいく。

こういった技術は、元々全てのデータがデジタルで作られるゲームの場合、入れるのが容易い。
なぜならそれらは最初からアフォーダンスを持ったオブジェクト、もしくはキャラクターとして人間が設定を行っているからだ。
しかし、現実世界でこういったインターフェイスを作ろうとした場合に問題となるのは、カメラ映像を解析し、それらを様々なオブジェクトに分解して認識し、それぞれに合ったアフォーダンスを割り当てなければならない。
モビルスーツの場合、行うべき行動が限られており、主用途も決まっているが、例えば人間と日常空間を共有するヒューマノイドなどを作ろうと思ったら、あらゆる物体を自動認識できなければならないし、学習し、他のマシンと共有する機能なども必要となっていくだろう。

モビルスーツを動かす事は、HCI的には可能なのではないかと思える。
しかし、実現するには他の面でも高度な情報処理や人工知能が必要になっていくだろう。